散文100のお題

001. 10000

ああ、何でこんな事になったのだろう。

ちゃんと、あの時確認したはずなのに。

何度も何度も確認したはずなのに、はずなのに。

 

どうして出てきてくれなかったのです。

どうして知らせてくれなかったのです。

たった一言「ここにいます」と言ってくれたなら、こんな事にはならなかったのに。

 

ああ、悔やんでも悔やみきれない。

隅々まで、くまなく調べたはずなのに。

何度も何度も確認したはずなのに、はずなのに。

あなたは知らないでしょう。 変わり果てたあなたを発見した時の、天地も揺るがんばかりのわたしの驚きようを。

でも、わたしも恐らく知らないのでしょう。 あなたがどんな思いで、散々な目に遭っていたのかを。

変わり果てたあなたを発見した時、すぐさま取り出そうとしたのです。

でも、それがいけなかったのです。

それは、してはいけない事だったのです。

 

あなたは脆くも私の手の中で崩れ去っていきました。

ゆっくりと開こうとしたわたしの指の力が強すぎたのでしょうか。

それとも、あなたは既に心身ともに極限の状態だったから、そよ風に当たってもぼろぼろになっていったのかもしれません。

それにしても、悔しいかな、悔しいかな。

上機嫌で洗濯層から取り出した、私の上着のポケットにあなたを発見した時の衝撃は、生涯忘れる事はないでしょう。

あの瞬間、わたしは奈落の底へと叩き落されたのだから。

あの瞬間、暖かな太陽の光さえ、憎々しく思ったのだから。

 

どうしてこんな事になったのでしょう。

あなたは偉大な方でした。

あなたは日本で一番価値の高いお方です。

わたしはあなたを失った事を嘆きましょう。

 

本当に、どうしてこんな事になったのでしょう。

あなたの今わの際の言葉は一体何だったのでしょう。

 

ああ、わたしの一万円札。

どうして、こんな事になったのでしょう。

記念すべき第一弾は、ショートショート的なオチという事でまとまりました。 さすがにないですよ、一万円札は。 仕事に使う身分証明書は、三度ばっかしやらかした事ありますけどね。

2005.01.17 掲載

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