ああ、何でこんな事になったのだろう。
ちゃんと、あの時確認したはずなのに。
何度も何度も確認したはずなのに、はずなのに。
どうして出てきてくれなかったのです。
どうして知らせてくれなかったのです。
たった一言「ここにいます」と言ってくれたなら、こんな事にはならなかったのに。
ああ、悔やんでも悔やみきれない。
隅々まで、くまなく調べたはずなのに。
何度も何度も確認したはずなのに、はずなのに。
あなたは知らないでしょう。 変わり果てたあなたを発見した時の、天地も揺るがんばかりのわたしの驚きようを。
でも、わたしも恐らく知らないのでしょう。 あなたがどんな思いで、散々な目に遭っていたのかを。
変わり果てたあなたを発見した時、すぐさま取り出そうとしたのです。
でも、それがいけなかったのです。
それは、してはいけない事だったのです。
あなたは脆くも私の手の中で崩れ去っていきました。
ゆっくりと開こうとしたわたしの指の力が強すぎたのでしょうか。
それとも、あなたは既に心身ともに極限の状態だったから、そよ風に当たってもぼろぼろになっていったのかもしれません。
それにしても、悔しいかな、悔しいかな。
上機嫌で洗濯層から取り出した、私の上着のポケットにあなたを発見した時の衝撃は、生涯忘れる事はないでしょう。
あの瞬間、わたしは奈落の底へと叩き落されたのだから。
あの瞬間、暖かな太陽の光さえ、憎々しく思ったのだから。
どうしてこんな事になったのでしょう。
あなたは偉大な方でした。
あなたは日本で一番価値の高いお方です。
わたしはあなたを失った事を嘆きましょう。
本当に、どうしてこんな事になったのでしょう。
あなたの今わの際の言葉は一体何だったのでしょう。
ああ、わたしの一万円札。
どうして、こんな事になったのでしょう。