ギャグ小説

楽しげなスケルトン一家・ハロウィンのサタデーナイトフィーバー

ゴーストタウン……

人のいなくなって久しく。 土煙が舞い、風に吹かれて空樽が転がる。 どっかウエスタンな田舎町……とか何とか思われ勝ちかもしれないが、ここで言うゴーストタウンとは、もう、まんま! な所なのです。 つまり、手っ取り早い話が――

 

オバケちゃん達のパラダイス!

 

楽しげなスケルトン一家・ハロウィンのサタデーナイトフィーバー

 

01. ハロウィンの日

ハロウィン。

街角ではオバケ、魔女、物の怪の類に扮した子供たちが、「トリック・オア・トリート!」等と声高に呼びかけながら自分達の甘い食料を確保して回っている。

いつの時代でも、微笑ましい光景だ。

そう、例えこれらの子供たちが、オバケの類に扮した本物のオバケ、魔女、物の怪の類のジュニアたちであったとしても……。

 

「たくさんお菓子、貰ったぞ!」

そんな無邪気な声がバタバタと通りを過ぎていく。 そして、そんな通りをしょんぼり行く者も、当然のようにいた。

そんな子供の名前はジャック・スケルトン。

骨である。

手に提げたボコボコのブリキのバケツには、慰めにもならないハッカ飴が二、三個と青すぎる小さなミカンが一つ。 ジャックがバケツを振る度にガンゴロ音を立てていた。 出るのは溜息ばかりだ。

「ただいまぁ」

「おかえり、ジャック。 どうだった今年は?」

出迎えてくれたのは母、ミセス・スケルトンだった。 ジャックは首をフリフリ。 それだけで不作振りが窺えた。

「全然ダメ! どいつもこいつも、骨だと思ってバカにして、真面目に取り合ってもくれなかったよ!」

「あら、まあ……」

溜息をつきながら、バケツをほったらかして二階へ上がろうとする所へ、妹のスージーがバケツに溢れんばかりにお菓子の山を抱えて帰宅である。

「やってらんない!」

「おかえり、スージー」

「何がやってられないの? お菓子たくさんあるじゃないか」

なぜ妹がご機嫌ナナメなのか謎だった。 スージーのバケツからは鼻から噴血しそうなお菓子の山が甘い匂いを引っさげていた。 思わず身を乗り出して羨むジャックは、そのまま階段から転げ落ちた。

 

カラコロ、カラコロ、カラカラカラ……

 

さすが、骨。

転げ落ちるまでの間、ジャックは階段と素敵なハーモニーを奏でた。

「あーいたた、バラバラになっちゃった」

「気をつけないさい、ジャック」

骨はデリケートなのだ。

母親や妹の見ている前で、ジャックは自分の身体のパーツを拾い集め、それを復元して首をコキコキ鳴らした。

頭、肩、膝、ぽんっ 膝、ぽんっ♪

歌っていたら、あっという間に子供ガイコツが完成した。 やんちゃの盛りは、よくこういう失敗をするものなのだ、骨は。

 

「何じゃ、何じゃ、騒々しい……」

「グランパ・ジョージ、生きてたの?」

「失敬な、生きとるわい!」

少々背中の曲がった大人の骨がペコポコやって来た。

ジョージ・スケルトン。

お年のわりには元気な骨だ。 その元気な老骨は、首をコキコキ、最後の調整をしていた孫を見て、ちっちっちと指を振った。

「階段から落ちたくらいでバラバラになってるようじゃ、馬鹿にされても当然じゃ! ほれ、これを食べなされ」

テレビのコマーシャルのような手付きで、グランパ・ジョージが投げよこした物を受け取る。 見れば成る程……

「キシリ○ールじゃ!」

「……」

真っ白な歯を光らせて、グランパ・ジョージの笑顔が眩しい。 歯だって立派な骨の一部だと考えれば、この小さなガムが全身に効きそうな気もしてきた。 ジャックはガムを頬張って、クチャクチャやりながら促されるままにリビングへとついて行った。

 

リビングには一家が勢ぞろいである。 おばあちゃん、お父さん、お母さん、お兄ちゃん、お姉ちゃん、ジャックにスージー、そして中でも一番元気なのがグランパ・ジョージだ。

元気、と言うよりは正直一番浮かれている。 それが何故なのか、今では家族全員が知っている。 そして同時に表情には出さずに不安がっているのだ。

「ねえ、グランパ・ジョージ、楽しそうだね?」

「そりゃそーじゃ、年に一度のビッグ・イベントじゃからな!」

それを聞いて、ジャックだけでなく、その場の誰もの心の中に突風が吹き荒れた。 やっぱりか! そんな声が腹の中から漏れてきそうだ。

「……じゃ、やっぱり今年も行くんだね?」

「もちろんじゃ! 踊って踊って踊りまくるぞ!」

やめてくれ! 後生だから!

その場の一同は、腹の中で絶叫した。 大型の台風の如く、渦を巻いて向かっているのに、グランパ・ジョージにはまるで効かないようだ。 一人、子供のようにワクワク、ウズウズしている。 言ってる傍から、ほらもう足がリズムを刻んでカタカタいっている!

「どうじゃ、今年は一つ家族全員で行かんか、市民会館で今夜はまるまるフィーバーじゃ!」

「あたしゃ遠慮するよ。 近頃は間接が痛くて、歩くのもオックウなんだからね」

真っ先に一抜けた発言は、他ならぬおばあちゃんだった。 わざとらしく膝をさすって、ふいっと明後日の方向を見上げている。

「私は次の日も仕事があるから……」

「わたしも色々とやる事がありますから……」

次に目を付けられては……とばかりにお父さん、お母さんも先に防衛線を張る。 そしてお兄ちゃん、お姉ちゃんも小波のようにリビングを後にして、とっとと自室に引き下がってしまった。

くるぅーりぃー

グランパ・ジョージが振り返る。 既にゲッチュー光線を発しながらジャックとスージーを見てくるではないか。

「ぼ、僕、宿題やらないと……」

「あ、あたしもぉ……」

ぐわっし!

「待たんか、哀れで寂しい年寄りを一人にする気じゃあるまいな、そこの孫たち?」

哀れで寂しい年寄りのものとは思えないような握力で、孫たちは肩を掴まれていた。 助け舟は、どこからも出ない。 両親は見て見ぬ振りで、一人は新聞を、もう一人は台所へと引き下がる。

 

「どうじゃ、せっかくじゃ、今夜は市民会館にレッツゴーじゃ!」

 

ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ !!

まさに絶叫。

首を左右に激しく振っても、二階へ逃げようとジタバタしても老骨の握力が弱まる事は無かった。 つまり、この元気な老骨が一年のうちで最も楽しみにしているイベントというのが、このハロウィンで、更に楽しみにしているのが市民会館で毎年催されるダンス大会なのである。

「今年こそ一等賞をとるぞ! ダンス・ダンスでフィーバーじゃ!」

年に一度。

これがクセモノなのだ。

グランパ・ジョージは、この年に一度のイベントでハメを外してぶっ倒れるのが毎回のお約束なのだ。 否、正確には精魂尽きて、そこら中に散らばってしまうから、余計に厄介だ。

「貧乏くじだね……」

「うん……」

若い骨たちは、すっかり背中に影を背負って、小躍りしている老骨を眺めていた。 つまり、今年の骨回収人はこの二人と言うわけだ。 そりゃ、誰だって面白くないだろう。 人ごみを掻き分けながらの骨拾いなんて、しかもそれが自分達の祖父とくれば、もはや笑う気にもなれない。

「さあさあ、夜が待ち遠しいわい!」

暢気なもんだ、まったく。

2003.10.31 投稿(2009.08 一部加筆修正)

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