ほのぼのファンタジー小説

茶色のこびん

♪ おがわの ほとりの ちいさな こやに

ふたりは なかよく すんでいました

おくの たなの ちゃいろの こびんは

いつも ピッカピカ まほうの こびんです ♪

 

茶色のこびん

01. ぼくのおばあちゃん

うちのおばあちゃんは、たいがいモーロクしている。 トシがトシなので、仕方がないのだろうけど、僕から見て、おばあちゃんは、いわゆる天然なんじゃないかと思う。

お母さんが忙しそうにしている時に、窓の外を眺めて一言。

 

「今日は本当によい天気だねえ、のんびりするねえ」

 

と言っては、目を細めて満足そうに一人で頷いている。 お母さんはムッとしてバタバタ立ち歩くけど、僕的には全然OKである。 むしろ、なごむ。 かなりイイ感じ。

だけど、そんな僕でも、やっぱりおばあちゃんを理解出来ない事もある。 それはつまり、そういう時もあるという事で、特に分からないのは……

 

「今日もご機嫌はいかがかね、ビンさんや?」

 

空っぽの茶色の小びんに向かって話しかけている所に出くわした時だ。 どうやら毎日話しかけているらしく、一日に一回は、子供なりに多忙な日常を過ごす僕といえども目撃するくらいなのだ。

それだけでも、充分モーロクしているなあ……と思うんだけど。

ある日、お母さんが何気なく窓辺に置いてあったおばあちゃんの小びんを捨てようとしていた事があった。 もともと使っていない小びんだし、別に誰も困らないと思ってした事だったんだけど、おばあちゃんは丸くなった背中でお母さんに食ってかかり、ゴミタメ場をひっくり返して何時間もかけて、小びんを探していた。

夜も遅くなってから、おばあちゃんはようやく帰ってきた。 もちろん、茶色の小びんと一緒に。 さすがの僕も呆れるやら、怖いやら、それすら通りこして感心していた気もする。

 

「おばあちゃん、何でそんなに小びんが大事なのさ?」

「いつか、お前にあげようね」

 

おばあちゃんは、ニコニコ笑ってそう言った。

質問には答えてないし、僕、別にいらないよ。 そう言ったけど、おばあちゃんは僕にあげると勝手に決めたようだった。

 

「こんな小びん、どーするんだよ。 エンピツ立てとか?」

「エンピツはよくないねえ、その小びんはとても大事なものなのだよ」

 

僕には、おばあちゃんの大事にしている価値は、よく分からない。 だけど、おばあちゃんが何のヘンテツもない、ただの小びんをとても大事にしているのも事実なのだ。

うーん、どーしたものやら。

僕は、目の前に置かれた茶色の小びんを、じーっと見ながら首を傾げていた。

大学の文芸部で初めて書いた「お題もの」でした。 お題はずばり、「既存の歌で話を書く」というもので、何を書こうかなと思った時に、ふっと頭を掠めたのが小学生の時に歌った「茶色の小瓶」の歌詞でした。

2001.11 掲載(2010.08 一部加筆修正)

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