ほのぼのファンタジー小説

茶色のこびん

茶色のこびん

02. こびんの不思議

とにかく僕はそれから、少しだけ茶色の小びんを気にするようになった。 気にし始めてからは、何だかおばあちゃんの言う事に妙な信憑性が生まれたような気がする。 というのも、ついこの間、僕が戸棚の横を通りかかった時だ。

 

何かを落としたような音がして、振り返ったら茶色の小びんしかなかった。

 

音がしたのは気のせいだと思ってやり過ごそうとしたら、またも音がした。 今度はやったらハッキリと聞こえて、でも僕の周りにはこの小びんしかなかった。

僕は、ちょっとだけ茶色の小びんを疑った。

でも、そんな事あるわけないよなあ……と思い直して、戸棚の横を通り過ぎた。

 

だけど、よくよく注意して見るようになると、茶色の小びんはますますおかしな事にあふれていた。

 

夜、トイレに起きた僕は、人のいるはずのないリビングの前に差しかかった時、人が話している声を聞いた。 僕はその瞬間に、その場に固まってしまった。 息を殺して耳を澄ますと、やっぱりそれは人の話し声だった。 僕に理解できるから、英語だ。 泥棒か、幽霊かは分からない。

でも、僕は怖くなかった。 なぜなら、話の内容があまりになじみのあるものだったから。

「こら、また、つまみ食いなんかして!」

「だってお腹がすいたよぉ、育ち盛りなんだから!」

「だからって、朝食用の『かたやきパン』を食べる事ないだろう!」

「だって、それしかなかったんだもん!」

 

……泥棒じゃ、なさそうだ。

だって、盗みに入ってつまみ食いで言い争いをするとは思えないし、だいたい僕ん家のかたやきパンは朝になるまでかまどに入れないから今は一個もない。 幽霊だとしたら、やっぱりお腹がすくのだろうか?

僕は勇気を出して、そっとリビングに入っていった。 暗い中で目を凝らして、耳を済ませて僕は正体を探した。 声はテーブルの上から聞こえてきた。

そっと目を上げると、茶色の小びんがそこにいた。 僕は思わず、声を出してしまったんだ。

「え、小びん?」

 

「しっ、静かにおし! 見つかるよ!」

「あ、んぐぐ」

 

茶色の小びんは慌てて黙りこくったが、僕は確かに聞いた!

今の今まで、この小びんは喋っていた!

確かに喋っていた、ぼくはちゃんと起きている、夢じゃない!

 

もはや、トイレどころじゃなくなった。

大学の文芸部で初めて書いた「お題もの」でした。 お題はずばり、「既存の歌で話を書く」というもので、何を書こうかなと思った時に、ふっと頭を掠めたのが小学生の時に歌った「茶色の小瓶」の歌詞でした。

2001.11 掲載(2010.08 一部加筆修正)

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