05.びんに住む小人族
おばあちゃんはコロコロ笑っている。 その目の前で、ちっちゃい人の形をしたものが、一人はむくれていて、もう一人は小鬼みたいな顔をして、むくれた方のちっちゃい人の形をしたものを睨みつけている。
「おばあちゃん、いつから知ってるの、この事?」
僕は未だに信じられない気持ちでいっぱいで、仕事が終わりの時間になってから、ずっとおばあちゃんの所にいりびたっている。 僕が直してあげた揺り椅子に気持ちよさそうに座って、おばあちゃんは、やっぱりコロコロ笑っていた。 丸い背中を更に丸めて、コロコロ笑っていた。
「新しい椅子は、とても心地がいいねえ」
「教えてよ、おばあちゃん、いつから?」
「調度いい、自己紹介してくれないかね?」
おばあちゃんの言葉に、ちっちゃい人の形をしたものたちは、ぽかんと顔を上げていた。 すると、むくれていた方のちっちゃい人の形をしたものが先に口を開いた。
「びんに住む小人族だよ、壊れちゃったけど」
悪びれずにそう言うと、すかさず大きい方のちっちゃい人の形をしたものが口を挟む。
「何言ってるんだい、お前が壊したんだよ。 まったく、本当にガサツなんだから嫌になるね。 掃除もロクに出来ないなんて」
「ちょっとヒジ振り上げたら、モップの柄が壁を突き破っちゃったんだよ」
「まったく、何て子だろうね。 びんに住む小人族が、住むびんを無くしちまうなんて、話にならないじゃないかい、え!」
キーキーと甲高い声を聞いていると、どれだけ気が高ぶっているのかよく分かった。 怒られている方は、ますますむくれて、ぷいっとそっぽを向いてしまう。 それで、ますます怒られるの繰り返しだ。
「まあまあ、ビン(奥)さん。 びんならまだまだありますよ」
おばあちゃんがコロコロ笑って言う。
「どうも、すみません。 いつもいつも」
どうやら、おばあちゃんは、このちっちゃい人の形をしたものをまとめて、ビンさんと呼んでいるらしかった。 母親の方をビン奥さん、娘の方をビン娘と呼んでいて、ビン奥さんはおばあちゃんに向かって丁寧に頭を下げる。
「お礼にまた、菜園手伝うからね」
ビン娘が笑顔を見せる。
「え、あの菜園を?」
どう考えても、サイズ的に無理がありすぎる。 僕は言葉を疑った。
「びんに住む小人族をナメるなよ」
ビン娘がビシリと、背丈に見合う、ちっちゃなモップを僕の鼻先に突き出して言った。 おばあちゃんも言った。 びんに住む小人族はとても働き者なのだ、と。 そんなおばあちゃんは、とても楽しそうに見えた。
僕たちの知らないところで、びんに住む小人族と仲良しだった。 だから、いつもびんに向かって話しかけ、ゴミタメ場をあさってでも、今は割れちゃった茶色の小びんをとても大事にしていたのだ。
僕は、ちょっと誤解していたんだ。
うちのおばあちゃんは、天然だけど、全然モーロクもしていない。 僕はこんな風変わりなおばあちゃんを心から尊敬しようと思う。
そして、新しく置かれた前より少し大きなびんには、今もびんに住む小人族が住んでいて、時々、僕のほころんだ服をいつの間にか、つくろっていてくれる。