04.こびんの秘密
その時は神経を張り詰めて、さながら探偵みたいに小びんに張り付いていた僕だったけど、更に数週間が過ぎ去った時には、日常の忙しさから、すっかり茶色の小びんの事なんか忘れていた。
その日、僕はおばあちゃんの揺り椅子を修理している最中だった。
ただでさえ古い椅子は、あちこちにガタがきていた。 早いこと直さないとおばあちゃんが怪我でもしたら大変だ。 僕は縫い物でもするかのように、合間を詰めてトンカチを打ち下ろしていたんだ。
その時だった。
トンカン、トンカン、トンテンカン。 ――ガチャン。
「え、ガチャン?」
明らかにトンカチの音とは違う、まるでガラスが割れるような音が聞こえた気がした。
振り返ると、小びんが割れていた。 それだけなら、僕も驚いたりはしない、いくら何でも。 でも、僕は思わずトンカチを取り落とした。 そりゃ、びんが独りでに割れるのもかなり不自然ではあるけれど、実際に目にした光景は、それ以上だったんだ。
「あー! やっちゃったよ〜、どーしよぉ……」
「こ、び、と?」
割れたびんの中から、何だかちっちゃな人の形をしたものが出てきたんだ。 不自然と言うより、絶対ありえない事が、今、僕の目の前で起こっているのだ。
「あ、見つかっちゃった?」
僕は言葉が出てこなかったが、コクリと首を上下させた。
何だかちっちゃい人の形をしたものは、背丈に見合う、ちっちゃなモップを持ったまま、こそこそと戸棚の棚に隠れ始める。 だから、見つかってるんだってば。
おばあちゃんは、この事を知っていたのだろうか。
「この、バカ娘――! なんて事をやらかしたんだい!」
大きな声が響いて、もうひとつ、ちっちゃな人の形をしたものが現れた。
外出していたらしく、やっぱり背丈に見合う買い物かごをさげ、大きさに見合った『かたやきパン』を数個入れていた。
隠れていたちっちゃな人の形をしたものは、更に棚の奥でちっちゃくなっていた。
僕は、あの夜、かたやきパンの事で言い争いをしていたのは、これらのちっちゃな人の形をしたものである事を確信した。 口調からして母子なのだろう、おそらく。