散文100のお題

008. 硝子の境界線

もうすぐ、もうすぐ……あの向こうには楽園が広がっているんだ!

肌に感じる加速する風、間近に迫ってくる楽園への入り口。

 

ここだ、ここを越えれば――

 

さっと栄光への一歩を踏み出した瞬間、鈍く木霊する邪な世界の衝撃音。

足元が崩落すると共に、目前の楽園が遠のいてゆく。

 

ああ、なぜ、なぜ……

なぜ、分かりやすく衝突注意の張り紙が無かったのだ……!

なぜ、ここの店員は磨きすぎを一言注意しなかったのだ……!

 

薄れ行く意識の向こうで、機械的なスライド音が細々と鳴り響いた。

誰でも一度はあると思うんです。 ピカピカに磨きすぎた窓ガラスとか、自動ドアに気付くのが遅れて突っ込んだ失敗談が。

2006.04.06 掲載

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