散文100のお題

012. 喉

熱い!

 

出来立てほかほかのうどんが次々と飲み込まれてくる。 もう少し冷ましてから食してもらいたいものだが、この人間にはそういう感覚がないらしい。 おかげでこちらはいつでも火傷するハメになる。

 

熱い!

 

うどんの合間にかっこまれてくる白米が、ぴったりと張り付いた。 慌てて口を開閉して送り込まれてくる空気によって温度を下げようと試みているらしいが、そんな事は飲み込む前にやってほしい。 っていうか、素直に水を飲め、水を。

 

熱い!

 

何でよりによってアツアツのお茶なんだ。 しかも番茶か。 折角だから玉露入りの煎茶にしてほしい。 見てみろ、舌も完全に火傷してしまっているじゃないか。 あれじゃ味覚なんかないだろう。 本当に、何から何まで熱くなければいけないらしい。

 

冷たい!

 

流し込まれてくる氷の塊と冷え切った飲料水。 どうやら、この人間は熱いものはとことん熱くないと、また冷たいものは何が何でも冷たくないと満足できないらしい。 熱いものの直後に冷たいものを流し込まれて、ほらー、皮が完全に捲れてしまった。

喉元過ぎれば、なんていうけども、アレは嘘だ。 ただ単に鈍感なだけだ。 感覚が死んでしまっているだけだ。

 

ふと見ると、一層肥大して完全に原型を留めていない、真っ赤になった物体がぶら下がっている。 思わず声をかけてしまった。

 

仏様! 大丈夫ですか?

 

普段は朗々とした仏様の声は、かすっかすに掠れて聞こえやしない。 どうやら、この人間、炎症を起こしてしまったらしい。 仏様は息も絶え絶えになりながら、それでも静かにぶら下がっている。

 

仏様、後生ですから、このフトドキ者を何とかしてくださいよ!

 

だが、仏様はかすっかすの声を絞り出して、一言だけ返したきり黙りこんでぴくりともしなくなった。

 

辛抱あるのみ……こう生まれついたのも天命です。

 

あーあ。 次はもう少し融通のきく柔軟な嗜好を持った人間の元に生まれたいものだ。

熱いものは熱く、冷たいものは冷たくという人いますよね。 そういう人達の喉は、きっとこういう事を訴えたい筈だという思い込みで書いた一本です。

2009.01.17 掲載(2009.08 一部加筆修正)

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