「こうして無事に全員揃ったところで、乾杯!」
「かんぱーい!」
こうして当時の仲間が全員顔を合わせたのは、実に十六年ぶりだった。 子供の当時から変わり者だった彼女は、何年経とうが変わり者だ。
仲間の中には既に結婚した者もいるし、来年には子供が生まれると、泡が残ったグラスを片手に嬉しそうに話している未来の父親はすっかり子煩悩な親そのものの顔をしている。 一方で、バリバリと働く企業戦士もいれば、仕事にあぶれてフリーターになっている者もいる。
そんな中、風変わりな彼女は相変わらず、にこりと微笑みを称えてマイペースにグラスを傾け続けていた。
「おまえ、本当に変わらねーなあ」
「相変わらず石掘り続けてんの?」
「うん」
にこりと微笑む穏やかな口元とは対照的に、その瞳には変わらない野望が灯っている。 日本を離れすぎているためか、完全に流行を無視した服装と、大和撫子には不似合いな引き締まった二の腕や太腿は日焼けして逞しいの一言につきる。
およそ日本人離れしてしまった彼女の、その日焼けした胸元に無造作に下げられた岩石は、おそらく彼女自身の手で発掘した戦利品の一つなのだろう。 何気なく向けられていた視線の先に気が付き、彼女は、いいでしょ、と笑ってみせる。
「わたしが初めて掘った石」
「へぇ〜、やるじゃん。 随分でかいの採ったんだな」
「えへへ。 でもね、残念ながら売り物にはならなかったんだけどね」
記念なの、と満足そうに微笑んでみせる。
素人目には良いも悪いも区別のつかない岩石だが、これは宝石として売るには粗悪なのだそうだ。 そういうものらしい。
「でもさ、磨いてみれば、それなりに綺麗かもしれないじゃん? 別に売らなくてもさ」
「そうそう、折角の記念なんだから、世界に一つだけのマイ・ジュエリーなんか作ってもらいなよ!」
横からひょっこり顔を出してきた仲間の一人は、すっかり陽気な雰囲気に浮かれた様子で、作ろう作ろう、と繰り返す。 とても来年、母になるとは思えない無邪気な笑い声と共に、コップを片手にしたまま、うだーっと寄りかかってくる始末だ。
「ちょっと、ウーロン茶だからって浮かれすぎ。 体、大丈夫なの?」
「大丈夫、大丈夫。 楽しいのがお腹の赤ちゃんにも一番いいの!」
「おーい、そろそろ奥さん回収しとけよー」
賑やかな宴会風景を見ながら、彼女は相変わらずグラスを傾け続けながら、にこりと微笑んでいる。
「ねえ、ねえ、宇宙の石は、いつ採りにいくのー?」
「おいおい、酔っ払いの絡みみたいになってるぞ」
「マジかよ、空気で酔ったんじゃねーだろうな」
一方の絡まれている方はというと、うだうだ寄りかかられているにも拘らず、空になったグラスを机に置いて、平然と微笑んでいる。 心配性で世話焼きな仲間たちが若い妊婦をひっぺがし、介抱するために、わらわらしている様を見ながら、ふと視線を合わせると、そこにはいつぞや見せた野望がきらきらと輝いていた。
「とりあえず、次はヒマラヤに行こうかな」
「ヒマラヤ? 何で?」
「うん、隕石が採れるっていうから」
彼女は健在だ。
その場の空気が一瞬にして凍りついたのは、いつぞやの記憶が勢いよく降ってきたからだ。 そして直後には、気心の知れた仲間たちの賑やかな笑い声が響き渡った。
「俺にも一つ採ってきてくれ」
「わたしも、わたしもー!」
彼女はそれ以上何も言わず、相変わらず、にこりと微笑みを称えていた。