03. 流れる涙もそのままに
「コガネムシぃはぁ金持ちだ♪ なんて言うけどな! そんなカネなんて、もっちゃいねぇんだよ! そうさオレ達にゃカネなんかねぇさ! 可笑しいか? 可笑しいなら笑え! 笑うならカネよこせ!」
カネよこせ〜カネよこせ〜のBGMに踊るグランパ。
「カネ……かね……金かあ……」
膨らんだ掃除機をチラリと見、踊る黄金の祖父をチラリと見、長孫ピーターはニヤリと笑う。
「ジャック、スージー。 グランパ売ろう!」
「ピ……ピーター? 何言ってんだよ、グランパだよ?」
「そうさ、グランパさ。 でも今は、とても珍しい歌って踊れておまけに手品までできるゴールデン☆なミニチュア老骨だぜ? しかもあんだけ大量に……物好きに売れば結構なモウケになる筈だぜ〜」
そう言って彼はぴゅき―んとパソコンを立ち上げ始めた。
「ネットオークションなら売れるかも……」
なにか遠い世界を見つめる妹。
「ス……スージーまで……でもグランパなんだよ! いくらなんでも売るなんて……それにすぐ帰ってきちゃうよ!」
「そう、そこがミソ」
「え?」
「いくら売っても商品は減らなーい。 がっぽがっぽだ〜」
だめだ……いっちゃってるこの骨……
アブなく、カタカタ動くピーターの指骨。
気分はラスベガス☆
詐欺でもイカサマでもなんでもこーい!
孫の黒い会話に気づきもせず、ゴールデン☆グランパ・ジョージはゴールデン★ダンスを踊るおどる。
ジャックは思った。
そりゃいつも迷惑なグランパだけど……
さっきまで散々ミニ・グランパ達に振り回されたけど……
でもやっぱり、僕達のグランパじゃないか!
売るなんて、それはいくら何でもあんまりだ!
スージーまでピーターに毒されている今、止められるのは僕しかいない!
「……ちょっと待って」
引き止める声の主は、ジャックではなく意外や意外、次孫ボニーだった。
!
ボニー……僕達を無視して自分の世界にいると思ったのに……
グランパ騒動に関心なく、手も貸してくれないと思ってたのに……
いざという時に助けてくれるなんて……
やっぱり、僕のお姉ちゃんなんだね……
美しき姉弟愛がジャックの胸骨に灯る。
「……売る前にちょっと……これ、オール金歯のグランパに噛ませてみたい」
がさっと出されたアルミホイル……
美しき姉弟愛は、ガルバニー電流に巻かれ消えた。
「……」
「……」
沈黙に包まれた長女と次男の目の前で、彼らの祖父はチラチラ・パチパチ火花を散らして跳ね回っている。 踊っているのか、踊らされているのか、或いは悶えているのかもしれないが、とにかく小さな純金製グランパからは、過剰なまでの反応が出た。
「……やっぱり基は骨だから、かな」
スージーの冷静な呟きが、ジャックには何だか恐ろしいものに聞こえた。 どうしよう、ちょっと骨の中見せて。 とか言い出したら……
「ふーん……そーなるんだ、分かったからもーいーや。 純金なんでしょ? これ以上やると傷んじゃって価値が下がるわ」
ジャックの中の小さな恐怖心に電流を流すような一言を発するのは、勿論長女の方である。 先ほどからピーターも自室に篭って何やらしていそうな気配だし、そろそろグランパも年貢の納め時ってやつなのかなぁ?
グランパを元に戻す方法も分からないまま、数日が過ぎ去っていった。 今のところ、大量のミニ・グランパ純金製は、小さいだけで普段と何一つ変わらない生活スタイルを維持している。
何一つ変わらない筈だった……
夕方だった。 リビングで付けっぱなしのテレビの前に座っていたジャックが、何気なく流れていた『ニュースの林』を見ていた時だった。 話題は掻い摘むと、新しい気象衛星を打ち上げましたよー! という内容で、少し興味を持って見ていたのだ。
カウントダウンが始まって、ロケットがアップになった時、ジャックはこの世の終わりのような大絶叫を上げた。