短編集

ある日の猫

ある日の猫

猫が鳴いた。

別に大した事じゃないと言われたが、続きも聞かずに大した事じゃないと言わないでほしい。

猫が鳴いた。 そして、逆立ちした。

まだ続きがある。 逆立ちして、そのまま逆立ち歩きを始めた。

どうた、凄い話だろう。 しかも、逆立ちして、また鳴いて、そして猫は消えた。 何処へ行ったかは分からない、でも猫は確かにそこにいた。

 

暫くして、また別の猫を見た。

その猫も鳴いた。 鳴いて、逆立ちして、逆立ち歩きをして、そして消えた。 二度も同じような光景を見て、さすがに怪しいな、と思った。

 

また暫くして、別の別の猫を見た。

その猫も鳴いて、逆立ちをして、逆立ち歩きをして、消えた。

 

そして次の日、ついに自分の番が来た。

鳴いてみた。

すると、猛烈に逆立ちがしたくなった。 思い切って足を蹴り上げてみると、思いの外、簡単に出来た。 でも、バランスが悪くて前へ前へと足が出てしまう。 止まらなくて、歩いていくと、ストンッと落ちた。

 

落ちて落ちて落ちて落ちて、気が付くと見た事もない世界にいた。

ここは一体どこだろう。

考えなくても何となく分かる。 周りを見ると、以前見た猫がいた。 じーっとこちらを見ていた。 その場から移動して、何もない一点を見ていると、また一匹、見た事もない猫が来た。

 

いつの間にか、都会から猫がいなくなった。

随分前に行方不明になっていた原稿が、先日ひょっこり出てきました! ばんざーい!

2005.11.25 掲載

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