ぐるぐると、ぐるぐると……少しずつ点に呑み込まれていく。
はっと気が付いたら、握り拳が白くなっていた、眉間に皺がよっていた、洗濯板にでもなったように体全体が固まって、強張っていた。 一息ついて、怒り上がっていた肩の力を抜いた、それでもまだ何かに引っ張り上げられるように、ぎこちなかった。
殴られた、殴り返した。
また殴られて、蹴られて、だからまた殴り返して、蹴り返して、口を切った。 するすると赤い糸が伸びた。 地面に向かってまっすぐに、まっすぐに、そして突き刺さっても尚沈んでいった、何処までも、何処まででも。
ぐらり、ぐらり……
そして渦が大きくなる、早くなる、暗くなる、深くなる。
ほんの一瞬足を取られて、あっと思うまもなく呑み込まれた。 顔まで沈んでしまう、必死で伸ばした手が見えなくなった、その瞬間、はっと気が付く。
手はまた握り拳を白くさせ、針金を入れられたように肩が張り、頭が重力に逆らえないまま、ぎりぎり宙に浮いていた。
殴って、殴り返して、怒鳴って、怒鳴り返されて、何をしているというのだろう、何をしたというのだろう。
誰に対して言うのだろう、一体誰から言われたのだろう。
なぜ、このように扱われるのだろう、なぜこのように扱うのだろう。
誰が、それをさせている?
誰が、そんな事を望んでいる?
誰もさせないし、望まない。
もう、いいじゃないか。
白くなるまで握った拳は、もうゆっくりと開かれてもいい筈だ。
動かなくなるまで強張ってしまった肩の力を、少しずつ抜いていってもいい筈だ。
重力に逆らって、その頭をもたげてもいい筈だ。
もう、いいじゃないか、充分じゃないか。
暖かい所で、優しく癒されて、ゆっくり休んでもいいだろう。
静かに目を閉じて、深く長く息を吐いて、心地よく沈みこんで体の隅々からありとあらゆる力を抜いてしまってもいいだろう。
それが、赦されているのだから。
それだけの価値が、あなたにはあるのだから、持っているのだから。