家を出る時、人に会う時、ただ通り過ぎる時、その顔に付けている面はどんな表情をしているのだろう。
笑っている?
泣いている?
怒っている?
笑いながら、泣いている?
怒りながら、笑っている?
泣きながら、怒っている?
笑っているにしろ、泣いているにしろ、怒っているにしろ、その顔は一体何で出来ているのだろう。
布?
土?
木?
紙?
硝子?
金属?
ゴム?
プラスチック?
あるいは、氷?
それとも、その顔を覆う柔らかい肌そのものが面なのだろうか。 だとしたら、その下には何が隠れているのだろう、何を隠しているのだろう。
清らかにして、鬼のようなもの。
堅固にして、脆く儚いもの。
喜びであり、憂いであるもの。
最高に美しくて、醜いもの。
まだまだ、ある……まだまだ。
でもそれは、きっと誰にも暴けないもの、暴いてはいけないもの。
見る事の出来ないもの、見てはいけないもの。
気付かないもの、自分自身ですら気付いていないもの。
さあ、そこには何が棲んでいるのだろう。
まだ眠りについたままなのだろうか、身動きはしていないだろうか、少し揺り動かせば小さく唸り、起き出してはこないだろうか。そろそろ、目を覚ますのではないだろうか。
その穏やかな笑みの奥には、何があるのだろうか。
その怒りで荒れた面の下には、何が潜んでいるのだろうか。
あ、一つの面が二つに割れた。
面は二つに増えた。
二つはやがて四つに増えた。
四つはやがて十六に増えた。
その面の一つ一つが語りかけてくる、何を語りかけてくる?
その声は面の持ち主にしか分からない。
面は、何を語りかけてきた?
どんな声で何を語りかけてきた?
何が聞こえた?
何が見えた?
面は意外とお喋りだ、そして出しゃばりで、でも慎ましく控えている。
暑さからも寒さからも顔を守り、顔以上に顔を伝える術を持つ。 でも、一つの面の命はとても短い。 あっという間に壊れて、次の瞬間には新しい面に挿げ替わる……さあ、少し休憩をしようか。
面は、何と言った?