頭が深々と冷える、そんな夜には温かい帽子が必需品でしょう。 家を出て真っ先に空を見上げると、お月様の周りにぽっかりと円が出来ていて、まるで分厚いコートを着ているみたいに見えた。
そんな高いところにいると、やっぱり寒いみたいだね、どう?
うす雲が月にかかる夜、まっすぐに歩いてみよう。 無粋なネオンの明かりが邪魔をしなければ、もっと綺麗な夜でしょう。 隣を走る耳の痛い騒音がなければ、もっと静かで穏やかな夜になったでしょう。
行き交う人たち。
寒そうに首をすくませて、ポケットに両手を突っ込んで俯き加減で歩く人。
寄り添って小声で会話をしながら歩く、若いカップルや熟年の夫婦。
時間は静かに流れていく。
音も無く。
さらさらと。
ひたすらまっすぐ歩いてみよう。 風はぴたりと止んでいる。 帽子も無いのに、不思議と周りは暖かい。 まるでさっきの月みたいに、見えないけれど分厚いコートを着ているみたい。
寒い夜に暖かいから、どんどん歩いてみよう。
どんどん、どんどん。
どんどん。
風は無いのに心に隙間風が吹いている夜。
だけど、暖かい夜。
深々冷えて、吐く息は白い夜。
不思議な夜。
そろそろ引き返そうかな、それとももう少し歩こうかな。 どこまで歩けるかな、あと一時間? 二時間? それとも夜明けまで?
空から眠りが緩やかに降ってくる。
深々と。
少しずつ足元に積もってくる、肩にも頭にも、そろそろ帰ろうかな。
遅くなった、家に電話しよう。 それからまた、今まで歩いてきた道を引き返そう、一歩一歩、一歩一歩。 ゆっくり歩いて帰ろう。 静かな夜を歩いて帰ろう。
ふと見上げると、うす雲は暗い空の中に溶けていた。
そしてぽっかりと月が浮かぶ。
帰り道、月が頭の真上で一緒についてくる、星もついてくる。
みんな一緒に帰ろうか。
ゆっくり歩いて帰ろうか。
夜はまだまだ暖かい、みんなで分厚いコートを着て帰ろうか。
深々と。
深々と。