短編集

からすのあしあと

からすのあしあと

からすのあしあと見ぃつけた。

川の近くの細長い公園の角にある、小さなコンクリートの上に見ぃつけた。

ぺとぺと、全部で24歩。 今はすっかり乾ききって、小さなあしあとが残っているだけ。 だけど、このコンクリートがまだ生乾きだった時、ここを歩いたからすは一体、何を思った事だろう。

 

あ、何だか人間どもが面白そうな事をしてるぞ、あれは何だ、何だ? 川の向こう側の電柱の上から舞い降りて、からすはコンクリートの一歩手前で着地をした。

最初は恐る恐る……ぺと。

わ、面白い! 何だこれ!

ぺとぺとぺと、ぺとぺとぺとぺと、ぺとぺとぺと……気が付くともう向こう側まで歩いてしまっていた。 振り返って、小さなあしあとを見て、からすは満足げに尾っぽを揺すり、そのままひらっと飛んでいった。

 

或いは……ぺと。

うぎゃ、何だこれ! めり込んだ、めり込んだ!

大慌てしたからすは、無我夢中で向こう側まで走っていた。 どきどきしながら振り返り、自分のつけたあしあとを見て、「僕は悪くなーい」と叫んで大急ぎで飛んで行ったのかもしれない。

もっと利口なからすだったら、あしあとをつけたその足が乾く前に、川で足を洗ったかもしれない。

 

からすのあしあと。

公園を通るたびに見かけては、思わずにっこりして通り過ぎる。 ふと空を見上げると、必ずからすが飛んでいく。

ある時は電柱の上で一休み。

ある時は民家の屋根で一休み。

ある時は大きな木の枝で一休み。

どのからすが、あのあしあとをつけたのだろう?

 

あしあとを見つけたその日から、からすはちょっと特別な存在。

近所の公園のコンクリートの上に残された鳥の足跡が、気になって仕方が無いのです。

2004.03.23 掲載

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